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いつもより肥料切れ早くない!? ~園芸用培土の硝化作用~

無いようである、園芸用培土の「賞味期限」

培土製品は、もちろん食品ではありませんので、賞味期限に該当するものはありません。しかしながら、育苗に使用した際に本来の性能を充分に発揮できる期限はあると考えています。特に園芸用培土においては、宿命的に逃れることができない「絶対の法則」が存在しており、これを知っているか知らないかで育苗の結果が全く変わってしまうと言ってよいほどです。というわけで、今回は培土製品にまつわる「硝化作用」についてお話ししたいと思います。

植物の栄養吸収の立役者「硝化菌」

皆さんは一般的な植物がどのような窒素を好んで活用するかご存じでしょうか。例えば硫安(硫酸アンモニウム)は非常にポピュラーな窒素肥料ですが、アンモニア態窒素(アンモニウムイオン)を活用できる植物は自然界でも極めて少数派であり、多くの園芸作物は硝酸態窒素(硝酸イオン)を好みます。アンモニアは酸化されることで硝酸に変化していきますが、この変化を担うのは土の中にいる細菌たちです。アンモニアを亜硝酸に変える「アンモニア酸化細菌」と亜硝酸を硝酸に変える「亜硝酸酸化細菌」があり、これらをひっくるめて「硝化菌」と呼びます。また、硝化菌による窒素の形態変化を「硝化作用」と呼びます。植物が栄養吸収をするうえでこのメカニズムは必用不可欠です。

というのも、硝酸イオンはマイナスの電気を帯びている(荷電している)ので、プラスの電気を帯びているカルシウムやマグネシウムのイオンと電気的に引き合い、それらを伴って植物の根から一緒に吸収されていくからです。もし硝酸イオンが吸収されないと、カルシウムやマグネシウムもじゅうぶんに吸収されず、欠乏症が発生する場合があります。硝化菌は、まさに植物の栄養吸収を支える立役者だと言えるでしょう。(本圃における硝化菌の重要性については当ブログの記事土壌改良材のススメ②硝化菌編「植物の栄養吸収をサポート」をご覧ください。)

園芸用培土の逃れられない「宿命」とは

ところで、プラスとマイナスの電気を帯びたものどうしは引き寄せあい、マイナスとマイナスの場合は反発しあう性質があります。一般的な土壌や培土はマイナスの電気を帯びており、プラスの電気を帯びたアンモニウムイオンを吸着します。逆に、硝酸イオンはマイナスの電気を帯びているため、土壌とマイナス同士で反発しあい、吸着されません。土の中の水分に漂っているようなイメージでしょうか。ここに水が流し込まれた場合、硝酸イオンその波(?)に乗って外部へ流れ出て行ってしまいます。

これがいわゆる硝酸イオンの溶脱で、土壌や培土の中で起きた場合は窒素肥料切れの一因となります。
皆さんは「前の年の園芸用培土を使ったら、やけに肥料切れが早かった」という経験はないでしょうか。これは硝化作用によって窒素がアンモニアから硝酸に変わったことが原因です。硝化作用は栄養素の吸収に必要不可欠、たいへん重要なメカニズムであるいっぽうで、硝酸は水で容易に抜けていってしまう・・・なんとも悩ましい話です。

では、硝化作用がおこりやすい条件はあるのでしょうか。一般的には①適度な水分②好気的環境③中性~弱アルカリ性のpH④適度な高温(条件にもよりますが、20℃以上で硝化菌は増殖します)とされますが、これらは春から秋にかけて、園芸用培土にだいたい当てはまってしまいます。なんという事でしょう。園芸用培土は(冬以外は)構造的に窒素の硝化作用が避けられない、これが宿命的に逃れることができない「絶対の法則」なのです。
(ちなみに、園芸用培土の硝化作用を抑制する方法として、硝化菌の活動を阻害する何らかの物質を配合する、培土の含水率を極限まで下げる、なども考えられますが、あまり現実的ではないうえに完全に硝化作用を防ぐことは困難です。)

園芸用培土の硝化作用とうまく付き合う方法

園芸培土の硝化作用は必用かつ避けられないもの、というお話をしました。そのうえで、園芸用培土を上手に使いこなす方法を考えてみましょう。答えはいたってシンプルです。「窒素が硝酸に変わっている前提で育苗を行う」ことです。先ほど硝酸は水で溶脱すると書きましたが、逆に言えば、ポット等の底から水が流れ落ちないようにかん水すればよいのです。そうすれば硝酸がポット内にとどまり、それを植物がフルに活用することができます。カルシウムやマグネシウムなどのミネラルもスムースに吸収され、良好な初期成育を示すことでしょう。

目安としては、かん水の際にポットの底穴を観察していただき、ごくわずかに水がしたたる程度にするのが良いと思います。また、園芸用培土は購入したシーズンに使い切り、翌年に残さないことや、古いものは新しいものへ少しずつ混ぜて使用するなどの工夫も有効でしょう。園芸用培土の性質を熟知したうえで、健苗を生育していただきたいと思います。

株式会社ホーネンアグリ 坂野(土壌医)

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